そんな取り組みをするワイナリーを応援しようと、今年から本格的に活動を始めたのが「地域共生ワイナリーネットワーク」(事務局長=菊池 馨実 ・早稲田大教授)だ。
応援するのは、福祉的理念を持ってブドウ栽培や日本ワイン(国産ブドウのみを原料とし、日本国内で製造された果実酒をいう)醸造に携わるワイナリー。障害を持つ人らが主体的に作業に関わり、周囲と協働して多様性のある地域づくりを目指しているところを応援する。
現在、全国15のワイナリーが応援先として参加する。応援団には、助言役として元厚生労働次官の村木厚子氏らが名を連ねる。応援団になった人には、ワインの試飲会・交流イベントなどのお知らせが届く。
最近、障害者らが農林水産業分野で活躍する「農福連携」が盛んだが、冬場も含めて様々な仕事があるワイン造りは、障害者の就労支援に最適と参加ワイナリーの一つは話す。
恐らく、たくさんの汗と涙と笑いが詰まっているであろうワインを味わうことで「人と地域と未来を醸す」取り組みのお手伝いができるのなら、喜んでグラスを傾けたい。ワイン好きの自分はそう思う。
ただし、ネットワーク化の構想はそうすんなり進んだわけでもなさそうだ。
雑誌「週刊社会保障」に昨年9月に掲載された菊池氏の寄稿によると、ネットワーク化は販売促進や障害者らの就労の場の確保、働く人の生きがい支援につながるのではという構想に対し、「うちは福祉や障害を前面に出していない」と参加を断るワイナリーもあったという。
菊池氏は、福祉や障害を起点とする自分の発想自体が縦割り的であったとし、ワイン好きが地域に集う中で障害のある人もない人も含めた支え合いの関係性が生まれる「地域共生社会」の理念を、当初の福祉的アプローチに加えたとする。
この「うちは福祉や障害を前面に出していない」という言葉は示唆的だ。
障害があるから買ってもらうではなく、まず品質で勝負。あえて障害は前面に出さないという考え方もあれば、品質を保つのは当然だが、個性や多様性としてむしろ積極的に打ち出したいとする考え方もあろう。
買い手の側からすると品質が伴わないものは困るが、そうでなければ造り手の個性は固有の物語となって心に響き、プラスの付加価値を生む。固有の物語は多様性につながり、多様性は思考の幅を広げ、偏見や無知からの解放や社会の豊かさの実感をもたらす。
もっとも、最近は多様性を重視する価値観が従来ほど堅固ではなくなってきているようだ。トランプ政権率いるアメリカで顕著で、人種、性別、年齢、国籍などに関し、過剰な優遇があるとの不満の高まりが指摘されている。もちろん、行き過ぎた多様性は問題だが、多様性を重んじない社会もまた、分断や憎悪を生み、存外、生きづらいのではないかと思ってしまう。