東京から原村に移住したのは2022年のこと。妻との八ヶ岳登山の後、ドライブで目にした自然やペンションビレッジに魅せられた。兵庫・淡路島出身の自分と同じように、我が子を自然の中で育てたかった。32歳の時に仲間と上場させた会社の経営は、リモートワークで続けている。
農業を志す実習生が集まる八ヶ岳農業大学校(原村、茅野市)は当時、経営不振に陥っていた。転職サイト「ビズリーチ」創業者の南壮一郎氏が、同校の理事長を引き受けた。村長に「南さんが学校を再建しようとしているから一緒にやっていただくといい」と勧められた。
農業従事者が減少するなど農業を巡る課題の深刻さを知るにつけ、経営者としての経験を生かしたいと思った。校長に手を挙げる人は多かったが、南氏に頼んで25年4月、校長に就いた。
再生プランの目玉は約10ヘクタールの休耕地に展開する花畑。南氏の号令で始まった。地方のフラワーパークを再生させてきた樹木医の塚本こなみ氏に相談し、薦められた本「にっぽんの花地図」を読んでは、10万人以上の集客力を持つ施設を徹底的に調べた。何月にどの花が咲くか、花がSNSでどう伝わっているか――。調査項目は約200。
調査で分かったのは、花を見てきれいだと判断しても、名前を知らなければ紹介できず話題が広がらないことだ。「名前が分かる花で勝負したい」と考えた。
八ヶ岳山麓の夏場に3か月咲き誇る花。それはサルビアとマリーゴールドだった。「学校の花壇のようだ」と冷ややかに見るスタッフも多かったが、生成AI(人工知能)に「壁打ち」で相談を重ね、ある結論にたどり着いた。視野が180度広がる2ヘクタール以上の敷地一面に、真っ赤なサルビアを植えれば、「絶景」として、集客できるのではないかということだった。
プロジェクト2年目の今夏、来場者は10万人を突破した。目標は100万人だ。「地域に新しい観光資源を作り、新しい産業を生み出していく。農業とは地域そのもの。それを実習生に感じ取ってほしい」
実習栽培にもデータを駆使する。一例がイチゴ栽培。農家に聞くと「イチゴは病気が多いから気をつけてね」と言われる。湿度が低いとハダニ、高いと灰色カビ病が出る。農薬も多くまく。「湿度が低いとは何%か」と問うと、誰も答えてくれない。だが論文を調べると、答えは出ていた。
安価な葉っぱ用センサーを購入し、AIに温度と湿度を読み込ませ、ハウス内の窓の開け閉めや、作業の優先順位などの指示を出せた。その通りに守ると、農薬の量を想定よりも大幅に減らせた。
新規就農者は5年で3割が離農する。「経験が浅いから赤字になるのなら、経験を 補填 するツールを作る必要がある。農業をサイエンスで捉えるのに生成AIを使う。若手も成功するためだ。これは農業革命だと思っています」(笹森春樹)
◇まるやま・ゆうすけ 1986年、兵庫県出身。2009年、立命館大経済学部を卒業後、新興企業などを経て人材採用支援「ソーシャルリクルーティング」(現ポート)に入社。18年に現在の東証グロース市場に上場させ、今は同社副社長を務める。