戸籍をさかのぼって自分の先祖を調べ、家系図を作成する人が増えている。2024年に戸籍証明書などの「広域交付制度」が始まり、本籍地以外の市区町村窓口でも、戸籍を請求・取得できるようになったためだ。個人が気軽に入手できるようになった一方、事務負担の増加などを理由に、家系図作成を目的とした請求に制限を設けている自治体もある。(石井恭平)
「こんなに簡単にご先祖様の戸籍が取れるなんて、とても便利」。千代田区でIT企業を経営する島田英明さん(42)は今年の春、家系図作成のために同制度を活用し、島田家の戸籍を取得した。
島田さんは4月に伯母を亡くし、「家の歴史を知る人がいなくなってしまう。長男の自分が残すべきだ」と考えた。島田さんの本籍地は長野県飯田市だが、自宅は埼玉県三郷市。同市役所で曽祖父に関する戸籍を取得した。判明した名前を頼りに追加で戸籍を請求し、5代前が「茂作」さんであることが分かった。
茂作さんは江戸時代後期の天保5年生まれ。長野県 喬木 村で暮らしていたが、明治後半に現在の飯田市に移り住んだ。島田さんの6代前で、茂作さんの義父にあたる人も同名の「茂作」さんであることが判明した。
5月に同市内の島田家の墓参りをした際、5代前の茂作さんの墓が見つかった。墓参りを欠かさない島田さんは「戸籍を取らなかったら、先祖の墓だと知らないままだった」と振り返る。
日本で全国的な戸籍が生まれたのは、大化の改新後の7世紀後半とされる。10世紀以降は廃れたが、明治政府が復活させた。
法務省などによると、明治初期に作られた 壬申 戸籍は、犯罪歴のほか被差別部落出身者だと分かる記述があり、1968年に閲覧が禁止され、現在は廃棄されている。
家系図作りを専門にする行政書士の丸山学さん(58)によると、現在請求が可能な最古の戸籍は「明治19年(1886年)式」で、直系の子孫が取得できる。
丸山さんは「先祖代々の土地に住む人が減り、地域とのつながりが希薄な現代だからこそ、自分のルーツを知りたいと思う人が増えているのではないか」とみる。
家系図を作成するため、広域交付制度を利用して請求すると、自治体職員は戸籍を一件ずつさかのぼって調べる必要があり、時間と手間がかかる。請求する人が増えた影響で自治体では業務量も多くなったため、一部では制限する動きも出ている。
新宿区では毎日5~10件、家系図作成が目的とみられる戸籍の請求がある。担当者は「制度を利用して先祖の戸籍を簡単に取得できることが知られるようになり、家系図作成目的の人が徐々に増えている」と語る。
立川市は、家系図目的で同制度を活用した請求の受け付けを一時停止した。繁忙期の3、4月は受け付けず、5月に再開したところ、1日数件の申請があり、再度停止したこともあった。「調べるのに2か月かかることもあり、対応できる件数には限界がある」(担当者)という。
多摩地域の自治体で3月まで戸籍の業務を担当していた、司法書士の志村健二郎さん(41)は、「複数の自治体に分けて請求するなど工夫をすれば、スムーズに取得できるのではないか」と話した。