愛知・名古屋アジア競技大会の観戦に訪れた人たちの中には、「名古屋めし」を楽しみにしている人も多いでしょう。名古屋めしというと、名古屋市が発祥の食べ物だと思いがちですが、ネット上には「天むす」「 味噌 カツ」「ひつまぶし」は三重県が発祥だと主張する声が数多く挙がっています。もしそうなら、なぜ名古屋めしと呼ばれているのでしょうか。「なごやめし普及促進協議会」のアンバサダーで、名古屋めしに詳しいフリーライターの大竹敏之さんに聞きました。
大竹さんによると、名古屋めしという言葉が誕生したのは、愛知県で外食事業を展開していた「ゼットン」が、初めて東京に出店した2001年。創業者の稲本健一さんがマスコミの取材で、同社が看板メニューとして出していた名古屋の郷土料理について、「珍しい料理ばかりなので、これらを一言で言い表せないか」と尋ねられた時に、「名古屋めし」と答えたことが始まりです。
その後、手羽先唐揚げで人気を得た「世界の山ちゃん」や、味噌カツが売りの「矢場とん」など、名古屋市に本社を置く外食チェーンが東京進出を果たし、そのたびに東京のメディアが「また名古屋めしの店ができました」などと取り上げました。さらに、2005年に愛知万博が開催されると、来訪者の多くが名古屋めしを知るようになり、知名度が全国へ広がっていきました。
名古屋めしというと、「ひつまぶし」「味噌カツ」「手羽先」「味噌煮込みうどん」「きしめん」などが“王道”として挙げられますが、近年では、同市の「麺屋はなび」が創作した汁なしラーメン「台湾まぜそば」が人気を集め、「新・名古屋めし」として認知されるようになっています。
もっとも、名古屋めしは、公的な認定を受けて「名古屋めし」を名のっているものではありません。大竹さんは「名古屋めしとは、庶民に愛されて広まった郷土の味なので、人によって捉え方が違っていいと思いますが、1店舗だけでなく、いろいろな場面で食べられるようになってこそ、名古屋めしと言えるのではないか」と考察します。
ただ、大竹さんは「名古屋市が発祥だ」と断言できる名古屋めしはとても少ないともいいます。例えば、きしめんは、三河国芋川(現・愛知県刈谷市)の平打ちうどん「芋川うどん」がルーツとされています。しかし、三河地方できしめんを提供するうどん店がほぼないことなどから、芋川うどんがルーツとは言い切れず、もちろん名古屋市が発祥とも断言できません。
「天むすも、昭和50年代に東京から来た芸能人たちが、三重県に本店がある『千寿』の名古屋の店舗で食べて人気となり、彼らが名古屋の食べ物だと勘違いしたことから『名古屋めし』として広がったという経緯があります。そのため、発祥は三重県で間違いない」と大竹さんは言い切ります。
きしめんや天むすなど、名古屋市が発祥だと断言できない食べ物までもが名古屋めしに含まれているのは、名古屋めしが、名古屋市や愛知県だけでなく、広域の東海エリアに及ぶご当地料理のことを指しているから。「他のエリアの味付けとは違い、大豆の割合が多い『豆味噌』を食す地域なので、東海エリアは“豆味噌文化圏”とも言い換えられます。その地域で生まれて親しまれてきたご当地料理が名古屋めしだと考えると分かりやすいと思います」
これに対して、名古屋市発祥の名古屋めしには、台湾料理店「味仙」の「台湾ラーメン」、「麺屋はなび」の「台湾まぜそば」、スパゲティハウス「ヨコイ」の「あんかけスパゲッティ」などがあります。
名古屋めしは観光客に人気で、大竹さんは「名古屋市の観光資源になっていることは間違いない」と断言します。2005年の愛知万博の時には、「矢場とん」や、ひつまぶしで知られる「あつた蓬莱軒」などのメジャーブランドに行列ができましたが、近年は、個人店にまで名古屋めしを求めて訪れる観光客が増えているといいます。
大竹さんが考える名古屋めしの一番の魅力は、「うまみ」です。「豆味噌やたまり 醤油 は、他の地域の味噌や醤油に比べて、うまみ成分が2倍くらいあり、これらに慣れ親しんだ人の 嗜好 に合う食べ物としてこの地域に浸透したのが、名古屋めしです。和食の一番の特徴であるうまみを分かりやすく表現した郷土料理なので、日本人なら慣れたらはまるはずですし、海外の方々にも紹介しやすいと思います」
大竹さんが、アジア競技大会で来訪した人たちにお薦めしたいのは、「手羽先」です。「本当は味噌カツを食べてほしいのですが、クセが強いので、1回食べただけだと、『変わったものを食べた』といった感想で終わってしまうかもしれません。鶏の料理であれば、宗教的な面でも比較的受け入れられやすいし、世界的にもだいたい普及しているので、ハードルが低い。名古屋めしを何か一つ試してみたい時にお薦めです」
さらに大竹さんが「個人的に推している」と熱弁を振るったのが、「きしめん」です。「きしめんが一番誤解されているんです(笑)。きしめんの専門店は、立ち食いの『住よし』と、『宮きしめん』しかないから、名古屋の人は他県の人に『きしめんをどこで食べたらいい?』と聞かれると、すぐに住よしって言うんです(笑)。もちろん、とてもおいしいのですが、立ち食いの店しか知られていないのはちょっと悩ましい。名古屋のほとんどのうどん店が麺のバリエーションとしてきしめんを用意しているので、うどん店でも食べてもらえたら」と話していました。
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